文房シリーズ デザイン雑記帳
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もうひとつの始まり 多足机のこと
毎年、極力都合をつけて正倉院展に足を運ぶことにしている。何度見ても多くの発見と学びがある。決して家具を見に行っているわけではないが、正倉院宝物の中で、家具に類する物はごく僅かしかない。
そもそも我々日本人の生活に家具というのはとても少ない。というよりほとんど無かったという方が正確だろう。
洋風化が始まるまでの家具といえば、少々極端かもしれないが箪笥とちゃぶ台ぐらいしか無い。昔の絵図を見てもおよそ家具に類する物は見あたらない。一方西洋では、古くから寝台や王の座る巨大な椅子など様々な家具を見ることができる。
九本づつの脚を持つ正倉院の多足机 「漆高机」儀式用机
正倉院宝物に家具のたぐいが少ないのは、そんな理由もあろうと思っている。
宝物の中に多足机というのがある。なんとなく現在の神社で使われている机の原点のような気がするがどうだろう。
そのシンプルでありながら、多足というアイデンティティを持った美しさに驚くのだが、私の最大の関心事は、いったいこれをどうやって作ったのかという事だ。あらゆる機械工具に囲まれている現代では通り過ぎがちだが、まともな工具はおろか、刃物すらまれな時代、少なくとも鋸などの登場以前だ。是非知りたいと思っているがいまだにわからない。
今回の文房シリーズのシンボルとしてデザインしたデスクは16足机そのものだ。デザインに当たって、置かれる空間の制約をできるだけ排除したかった、要はどんな所に置かれても違和感なく存在できることだ。私見だが普通の四本脚のデスクは座敷の片隅に置くには違和感があるが、16足デザインは妙に和の空間にもなじむ、畳の座敷に置かれても美しいと思っている。
文房シリーズ 16足デザインのデスク
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