文房シリーズ PCデスク編
理想のPCデスクとしての一つの回答
今回のプロジェクトでは、最初からPCデスクとしての機能を意識していた。
PCも一昔前と違って、今や立派な文房具だ。
硯と筆がインクと万年筆に代わり、鉛筆が登場し、ボールペンやシャープペンシルが登場する。
その延長線上にPCがある。
ただ、鉛筆や万年筆にくらべると、大分大仕掛けでラップトップといっても、それなりの場所はとるし、充電のための電源が要る。更に、外付けハードディスクや、PCではないが、携帯電話、音楽プレーヤなどがデスクに置かれることになる。
理想のPCデスクというのは、人によって、使い方によって様々で、理想の標準などあるはずもないことは承知している。
ここで理想のPCデスクというのは、どこまでいっても私が理想とする姿に少しでも近づけたいと意図してデザインしているという意味なので、誤解のないよう願いたい。
デザインにあたって考えた事は、全くPCデスクという雰囲気を持たないながら、PCのための最小限の機能を内包する小さくて美しいデスクである。
PCデスクとは
PCデスクというものを売っているが、私の知る限りデスクというよりもPCの延長線上で発想された商品が多く、ケーブルの始末は必須条件だが、キーボードのための引出しがついていたり、プリンタを置く棚をセットできたり、およそ学童机の大人用のようなものであったり、事務所むけのデザインでホームユースに向くものは少ない。
自分なりに考えた開発コンセプトは以下の二つだ。
普通のデスクであること。
ここでいう普通のデスクとは、文房シリーズはホームユースを前提としているので、居間の片隅に事務所のスチールデスクを持ち込むような事はしたくない。
なるべく、普通のデスクでありながら、PCが使いやすい環境を備えているという意味だ。
インテリアに美しくとけ込み、小さいながらデスクとして美しいアイデンティティをもつ。
二つ目は、最大の課題はコードの山、これをどう解決するか。
自分の経験からするとワイアリング(電源コードのとりまわし)が最大のテーマだ。
だからといって、仕掛け、仕組みは最小限にとどめたい。
事務所も自宅もPCの置いてあるデスクの下はコードと充電や周辺機器のACユニットだらけ、たこ足というよりミミズの巣のようで、どうしても掃除がいきとどかないから、ミミズの隙間に綿埃だらけということになる。「なんときたない」と仰るかもしれないが、世の中決して自分だけだとは思えない。
「文房シリーズ」デスクトップの寸法は奥行き45センチ×幅90センチだ。45センチという奥行きは、引出しにすべてを使ってしまうには深すぎる。引出しの奥のスペースをケーブルの始末のために使えるように考えた。
スペースさえあればそれでよいかというと、そうはいかない、使い勝手を考える必要がある。
まず簡単にケーブル類をセットできるためには、開け閉めができる扉がいる。
ただ、この扉は始終開けたりするものではなく、必要な時に最小限機能すればよい。ということで、いろいろと考えたあげく、慳貪(けんどん)に至る。
慳貪(けんどん)と言っても、今の人たちにはなんのことやら解らないかもしれない。ほら「おかもち」の蓋でさ、と言ったところで、こんどは「おかもち」って何ということになる。文字で説明するのは難しいが、上と下に溝が切ってあり、板をまず上の溝に合わせて入れて、下の溝に落とし込んで止める、と言えばわかるだろうか。
写真を参照して欲しい。
慳貪(けんどん)というのは日本の発明かどうか知らないが、慳貪箱という表現や、とても難しい漢字が存在することから考えると、そうなのかもしれない。
シンプルで使いやすい仕掛けだと思う。
ということで、必要な時に裏蓋をあけて、コードや充電器をセットすることで、床におりるコードは余程沢山の機器を使わない限り1本で済むことになる。
足下はすっきりさわやかだ。
使用シーンを考えてみよう
「文房シリーズ」デスクにラップトップPCが置かれている。
ここではMacBookとしよう。デスクに必須なのはデスクライトで、小ぶりな電気スタンドが必要だ。さてこれがミニマムの条件だが、これで足下はどうなるかと言えば、デスクライトの電源ケーブルが一本、そしてMacBookからは細いコードで白い小さな箱のようなACユニットに繋がり、そのACユニットから白い太い電源コードがという姿になる。
ここで、もう一つの問題は、電源コードの長さは平均的な使用で文句のでない長さを設定しているから、使用シーンによっては長すぎたり足りなかったりする。足りない場合にはテーブルタップという延長コードのご厄介になるのだが、長すぎる場合は、はさみで切るわけにもいかず、我慢である。
更に携帯電話の充電器があり、携帯オーディオプレーヤーの充電器もある。
それでは、上記のシーンを「文房シリーズ」から床に降りるのは、ただ1本のコードのみという景色に変えてみよう。
まず必要なのは、テーブルタップだ。床からのコードはこれだけだ。デスクの裏の慳貪(けんどん)蓋を開けて、引出し裏のスペースにテーブルタップをセットする。
あとはこのタップに電源コードを繋げばよい。コードはなるべくきちんと始末すると小さなスペースで処理ができる。MacBookの白いACアダプターもこのスペースの中に入れられる。携帯電話の充電器も同様にこのスペースに納めることが出来る。壁のコンセントにいく一本のコードだけを出して、蓋をして出来上がりだ。
重装備型には向いていないが
このデスクはあくまでもラップトップの使用を前提にデザインしている。調査によると国内で普及しているPCの7割以上がラップトップという情報が基本になっている。
いわゆるデスクトップ型のPCと大型のモニターという構成は、このデスクではスペース的に無理があるし、繰り返し述べているように、このデスクはこだわりのホームユースとしてデザインしているので、PCを一日中使うような仕事をしている人には向いていない。
ただ2010年のモデルチェンジで、オプションパーツから外れてしまったが、引出しを使わず、そのスペースに外付けのハードディスクや、無線LANのユニットをおさめる事もできる。引出しの穴から中にセットした機械が見えないようにフィラープレートという前面の蓋のような板を売っていた。定番から消えたが、どうしてもという要望にはきっと対応してくれると思う。
これは発売後のエピソードだが、真ん中の大きな引出しを外してしまうと、丁度PCを入れるスペースになるという。これは開発者の私も予測しなかった使い方だ。
ただし、これも普通のデスクではできない。何故かといえば外した引出しの奥まで、きれいに塗装仕上げをしているデスクなどまずないからで、さすが桜製作所の職人と言いたいところだ。