連載「モノ語り」目次

文房シリーズ デザイン雑記帳

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いくつかの特徴

最初にいくつかの特徴をまとめておこう。

コンパクトなサイズ

前述のとおり二月堂をコンセプトとしているが、まずデスクとしての必要な大きさの検討から始まった。最初のモデルは現状からすればずいぶん大きなものが検討された。(下の写真参照)デスクというのは不思議なもので、なんとなくイメージする大きさというのがあるし、社会的にも社長さんの机とか、代議士さんの机などステータスシンボル的な意味を持つ場合もある。

初期のデスクの機能モデル
ごく初期のデスクの機能モデル
机の上に置いてある板が最終製品の大きさ

そんな、いわばデスクの副次的機能はさておいて、必要最小限の大きさを検討していった。結果幅90センチ、奥行き45センチと設定した。
この寸法に至ったもうひとつの理由は、大きなデスクを使っている人でも、実際に使用する面積というのだろうか、積み上げられた書類の谷間はそんなに大きくないということもある。

居間のコーナーでも、和室の片隅でも、廊下ですら置けるコンパクトなデスクが特徴だ。模様替えも、ちょっと力持ちなら一人で十分移動が可能だ。

筆返し コンパクトを補うディテール

デスクの両サイド
デスクトップの両サイドは少し高くデザインした

コンパクトだが、デスクからものが落ちると困る。広く大きなデスクなら必要ない心配だろうが、このサイズだと少々気になる。
デスクトップの両サイドが、すこしだけ高くなっているのは、筆記用具や小物を不注意で落としそうになったときにストッパーとして機能するデザイン上のディテールで、単なる意匠ではない。
日々使ううちに、あるとないとでは大違いである事が理解できるだろう。

ご推察のとおり、ヒントは日本古来からある「筆返し」を現代に翻訳した。今風に言えば「ストッパー」とか「落下防止なんとか」ということになるのだろうが、「筆返し」とはなんとも心地よい表現だと思う。

普通のデスクでありながら

現実、お値段のことを言えば、驚くほどに安い家具やデスクは沢山ある。びっくりするほど高価な家具もある。
文房シリーズも決して安価な家具ではない。多分世の中には役割分担というのがあって、量産が得意な会社と、まったく量産が不得手な会社がある。
文房シリーズのメーカー 桜製作所は後者の象徴のような会社で、そもそも注文家具で60年やってきた会社だから、量産などやろうと思ってもできない。もちろん手仕事が多い分コスト高になるのだが、量産ではできないクオリティを求めている。

百年を意図して

使い捨てではなく、長く大切に愛用してもらえる家具を意図している。
あくまでも、ものの表現にしかすぎないが、百年使える家具を思ってデザインしている。
そのためには、飽きないデザインであることが必要だ。個性の強いデザインは使い手の気持ちの変化や感性の進歩の中で違和感が生じてくるものだ。
直線を生かしてできるだけシンプルなデザイン、そして基本モデルで黒を基調としたのは、どんな空間でも、まわりにどんな色がきても、けんかをしない色ということで設定している。

一見小さなただのデスクだが、よく見ると素晴らしい。使い続けるともっと素晴らしい。そんな商品を目指してディテールのクオリティに許される範囲で、とことんこだわっている。詳しくは、次ページをご参照願いたい。

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「文房シリーズ デスク(DESK)」の商品情報は、桜ショップオンラインにてご覧いただけます。

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株式会社古今研究所 代表取締役
稲生一平

アートディレクター、陶芸家
1942年生まれ。大手広告代理店に勤務後に独立。異色のプロデューサーとして活動。
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